大気沈着|Atmospheric deposition
バルク沈着の採取装置
(北海道大学雨龍研究林)
湿性沈着の採取装置
(北海道大学雨龍研究林)
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大気から雨や雪、ガスやエアロゾルとして降下する物質は、森林集水域の物質入力として重要であり、それらの物質を大気沈着(大気降下物)と呼びます。大気沈着には湿性沈着(雨、雪など)と乾性沈着(ガス、エアロゾルなど)におもに分けられ、霧・ミストなどの成分をオカルト沈着あるいは雲水沈着として湿性・乾性沈着と区別することもあります。
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自然起源のものとして海塩、火山、土壌粒子などが含まれます。一方、人為起源としては化石燃料の燃焼に伴って排出される硫黄酸化物、窒素酸化物、鉛、水銀などの他、化学肥料や堆厩肥に由来するアンモニア態窒素や硝酸態窒素などが含まれます。
【バルク沈着|Bulk deposition】
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上空が開放した場所(開放露場)において、ロートなどを用いて採集する大気沈着のことをバルク沈着と呼び、大気沈着の調査項目として広く調べられています。
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林外で観測されるバルク沈着のことを林外雨(雪)と呼ぶこともあります。バルク沈着には湿性沈着と乾性沈着を両方含んでいます。
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一般的には直径30 cm程度のポリエチレンのロートを用い、ビニルチューブなどで採集容器(ポリエチレン容器など)に降水試料を集めるものが多いです。
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バルク沈着のサンプル中に含まれる成分濃度に降水量を乗じることで、その成分の採集期間における大気沈着フラックスを求めることができます。
【湿性沈着|Wet deposition】
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湿性沈着(雨・雪)を正確に分別採取するためには、降雨(雪)が生じている期間のみサンプラー上部のフタが開く機能を有する自動採取装置を用いることが多いです。
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装置には感雨(雪)センサーが付いており、降雨(雪)が始まるとサンプラーのフタが開き、降り終わるとフタが閉じるような機能を有しています。
【乾性沈着|Dry deposition】
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乾性沈着はガスやエアロゾルの状態で植生面や陸面・水面に沈着する成分です。濡れた面は乾いた面に比べて沈着速度が高いことが知られています。また、表面の物理構造(凸凹や粗度など)も沈着速度に影響するため、植生タイプや土地利用によって異なることが知られています。
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大気に含まれる乾性沈着の成分であるガスやエアロゾルの濃度を測定し、それに沈着面の性質を考慮に入れた沈着速度を乗じて乾性沈着フラックスを推定することができます。
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大気中のエアロゾルやガス濃度を調べるためには、電動ポンプを用いて一定量の空気を吸引し、試薬等を染み込ませたフィルターによって各種成分を吸着する方法で調べることができます(フィルターパック法)。
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また、森林への乾性沈着フラックスは、林冠(森林の葉・枝が生い茂っている部分)下で観測される降水成分と、森林外で観測される湿性沈着成分を比較し、その物質収支から推定することができます。
「森林集水域の物質循環調査法(柴田英昭著・共立出版)」第2章より抜粋、一部改変
フィルターパック法による大気中のガス・エアロゾル濃度の観測(北海道大学雨龍研究林)