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土壌|Soil

  • 土壌は森林集水域における物質循環の「かなめ」です。土壌内での物質移送、貯留、変化の様子とそれらの変動要因やメカニズムを理解することは、集水域における物質循環全体の解明の上できわめて重要です。

  • 土壌内での物質の保持・変換プロセスは、集水域レベルでの物質収支、養分循環、水質形成、ガス代謝などのダイナミクスに密接に関係しています。

  • 土壌にはその環境条件や理化学特性に応じて、多種多様な土壌動物、土壌微生物が生息しています。特に、土壌微生物は生元素(炭素、窒素、リンなど)を始めとしたさまざまな物質の循環過程に重要な役割を果たしています。

  • 土壌の材料である鉱物からは、化学的風化反応によってカルシウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウムなどのアルカリ金属成分やアルカリ土類金属成分などが供給されています。必須元素として重要なリンも、主として鉱物風化を起源としている。

土壌採取 土壌水・土壌溶液 土壌呼吸・ガス代謝 窒素無機化・硝化

【土壌採取】

土壌の物理構造や化学成分を調べるためには、土壌を直接採取し、計測する必要があります。おもに落葉・落枝とその分解物からなる層をリター層、有機質層、粗腐植層、O層(A0層)などと呼びます。O層以下の土壌は鉱質土壌と呼ばれ、その生成過程や特徴に応じてA、B、C層などに区分されます。

  1. O層の採取
    O層はその分解程度に応じて物理性や化学性が異なるため、Oi、Oe、Oa層(L、F、H層)に区分して採取することが多いです。ここで、Oi層(あるいはL層)は新鮮で未分解の有機物を多く含む層であり、Oe層(あるいはF層)は分解が中程度の有機質層、Oa層(あるいはH層)は分解がよく進んだ有機質層です。
     地表に一定面積の区画を設けて、その中に含まれるO層を層別に全量採取することが一般的です。層の境界を明確にするためにはあらかじめ垂直断面を作成し、その変化を良く観察してから採取します。

     

  2. 鉱質土壌の採取
    土壌を層別あるいは深度別に採取するためには、あらかじめ垂直な土壌断面を作り、採取する深度の境界を設定します。研究目的に応じて土壌断面の様子や層位区分等を観察し、記録します。
     土壌を深さごとに採取する場合、土壌層(A層、B層など)別に採取する場合と、一定の深度別(5 cmごと、10 cmごとなど)に採取する場合に大きく分けられます。土壌生成因子の影響を強く受けているパラメーターの場合には土壌層別に採取し、地表からの熱・水・有機物供給の影響で深さ方向に傾度を持つと想定するパラメーターについては一定深度別に採取することが多いです。
     スコップを使うほかに、オーガーと呼ばれるパイプ状の道具を使うことで、土壌試料を採取することができます。
     植物根や石礫の影響を取り除くために、現地で目の粗いフルイ(4~5 mm程度)を用いて篩分けすることも多いです。

     

  3. 未攪乱土壌の採取
    土壌の密度(体積当たりの乾物重量:容積重、仮比重)や透水性など、土壌の構造を乱さずに土壌を採取するためには、ステンレス円筒など一定容積の採土円筒を用いて採取します。
    ​ 土壌構造が乱れないように注意しながら垂直方向に採土円筒を挿入し、土塊ごと取り出し、円筒周囲にある土壌はナイフなどを用いて取り除きます。

【土壌水・土壌溶液】

土壌に含まれる水にはさまざまな養分や化学成分が溶け込んでいます。土壌内の水そのものを指す場合には土壌水と呼び、溶質成分を含めた場合に土壌溶液と呼ぶことが多いです。重力排水で移動する土壌水のことを土壌浸透水と呼ぶこともあります。
 長期的、継続的に現地の土壌水・土壌溶液を採取するためには、土壌から水サンプルのみを直接採取できる道具を使う必要があります。土壌に含まれる、あるいは土壌内を流れている水を採取する器具はライシメーターと呼ばれています。
 土壌にはさまざまな大きさの孔隙があり、その大きさに応じて土壌内での保持力が異なります。比較的大きな孔隙内は毛管力が小さいために、重力により水が流下しやすいです。したがって、降雨時における土壌から溶脱する成分は、この重力排水で移動する土壌水(土壌浸透水)に多く含まれます。一方、土壌内の比較的小さい孔隙には毛管力で水が保持されます。そのため、晴天時等に樹木が蒸発散や養分吸収を行うためには土壌の毛管に保持された土壌溶液がより多く使われます。

 

  1. テンションフリーライシメーター
    重力排水で移動する土壌水(土壌浸透水)を採取するのにはテンションフリーライシメーターが多く用いられています。採取しようとする土壌深度において、水平方向に板状あるいは半円柱状のライシメーターを挿入し、排水チューブ等を取りつけて貯水タンクに土壌溶液を採集する方法です。この方法ではライシメーターを挿入するために、ある程度の広さで土壌断面を作成しなくてはならないので、ライシメーター設置時の土壌攪乱に注意が必要です。

     

  2. テンションライシメーター
    土壌の毛管に保持された土壌溶液を採取するためには、テンションライシメーターが多くの研究で広く用いられています。セラミック製のポーラスカップが先端に装着されているパイプ状のテンションライシメーターが広く使用されています。
    ​ ライシメーター内にポンプ(電動あるいは手動)を用いて吸引圧をかけ、一定時間待ってから貯まった土壌溶液を採水します。土壌の水分条件や物理性によって吸引時間は異なり、吸引後すぐに土壌溶液が得られる場合もあれば、1日後あるいは数日かけて吸引を継続しなくてはならない場合もあります。

     

  3. ​イオン交換樹脂法
    陽イオンや陰イオンを吸着することのできるイオン交換樹脂やイオン交換膜を土壌内に埋設し、その上層の土壌から溶脱するイオン成分の量を測定することができます。イオン交換樹脂はナイロン製のストッキングなどに入れ、上下端が空いている塩化ビニルチューブなどに入れて土壌内に埋設します。イオン交換樹脂に吸着されたイオン成分を分析することで土壌水に含まれる成分量を推定できます。

     

  4. 土壌水分の測定
    土壌内での土壌水・土壌溶液による物質の移動速度を見積もるためには、土壌水分や土壌水分吸引圧の深度分布やその季節変化を計測する必要があります。土壌を乾燥させ(一般に110℃で24時間以上)、新鮮土壌との差から含水率を求めることができます。また、一定容積の採土円筒を用いて体積当たりの水分率(体積水分率)を求めることができます。
     現地で継続的に土壌水分を測定するためには、TDR(Time Domain Reflectometry)水分計と自動記録装置(データロガー)を用いることが有用です。
    ​ 土壌水分吸引圧(ポテンシャル)は土壌の乾湿を表す指標として、また土壌水の移動速度を決定する指標として重要です。現地での土壌吸引圧はテンシオメーターを用いて測定することができます。

     

​【土壌呼吸・ガス代謝】

土壌表面からは土壌微生物や植物根のはたらきによって、二酸化炭素、亜酸化窒素(一酸化二窒素)、メタンなどさまざまなガスが発生しています。土壌からの二酸化炭素発生の現象は土壌呼吸と呼ばれています。
 

  • 土壌微生物による物質代謝の結果として発生するガスの量については、室内におけるビン培養などで測定することができます。一定量の土壌を容器に入れ、温度や水分を調整した状態で、実験室内の恒温器内で一定時間培養します。そして、容器内のガス濃度の変化を継時的に測定することでガス発生速度を求めることができます。

  • 現地において土壌からのガス放出速度を測定するには、チャンバーと呼ばれる円柱型あるいは箱型の容器を土壌表面に被せ、そのチャンバー内に充満するガス濃度の上昇速度を計測することが一般的です(チャンバー法)。二酸化炭素の場合には、土壌微生物と植物根の呼吸を合計して測定していることとなります。

窒素無機化・硝化

土壌中にはさまざまな形態の窒素が存在します。落葉・落枝などの有機物に含まれる窒素は有機態窒素と呼ばれ、そのままの形態では植物や土壌微生物の無機栄養源として利用されません。有機態窒素が土壌微生物のはたらきで無機態窒素に変化することにより、アンモニウム態窒素や硝酸態窒素として植生や土壌微生物の無機窒素栄養として再利用されます。また、その一部は土壌から水圏へと溶脱されます。
 土壌微生物による窒素無機化および硝化速度の測定は、おもに室内培養による方法と、現地培養による方法に区分されます。いずれの方法でも、一定期間の培養前後における土壌に含まれる無機態窒素の変化を分析し、その変化量を正味の窒素無機化量、硝化量とすることが多いです。

  1. 室内培養法
    室内培養による正味窒素無機化・硝化速度を求めるためには、恒温培養器内でガラス瓶容器などに一定量の土壌を入れ、温度と土壌水分を調節した状態で一定期間培養します。いくつかの温度で測定し、温度との関係式を求めると、実際の温度条件における速度を推定する際に役立ちます。
     培養前後の現存量の差から求めた窒素無機化・硝化速度は、土壌微生物による無機態窒素の生成と消費の結果であるので、正味の速度あるいは純速度と呼ばれ、「正味アンモニウム化速度」、「正味硝化速度」、「正味窒素無機化速度」などと表記します。
     土壌微生物による窒素生成・消費の総速度(Gross rate)を見積もるためには、15-Nをトレーサーとした同位体希釈法を用いることができます。

     

  2. 現地培養|バリード・バッグ(Buried bag)法
    薄いポリエチレン袋に新鮮土壌を入れて現地の土壌内で培養することで、現地の地温変化に対応した窒素無機化、硝化速度を推定することができます。枯死根分解の影響を避けるためにフルイなどを用いて根をあらかじめ除去すると良いです。厚さ0.03~0.1mm以下程度のポリエチレン袋を用いた培養環境において、酸素や二酸化炭素の通気性は確保され、水分変化は小さいことが確かめられています。

     

  3. 現地培養|シリンダー法
    土壌の構造を乱さない状態で現地培養するために、シリンダー法(あるいはPVC法)を用いることがあります。この方法はポリ塩化ビニル(PVC)チューブなどを土壌に打ち込み、そのまま一定期間放置することでチューブ内の土壌構造を乱さない状態で土壌を培養する方法です。
     この方法ではチューブの打ち込みによって植物根が切断されるので、植物による養分吸収の影響を排除した環境で、土壌微生物による正味の窒素無機化・硝化速度を推定することができます。

     

  4. 現地培養|レジンコア法
    土壌を円筒容器(コア)に入れ、上端と下端にイオン交換樹脂(レジン)を取り付けた状態で現地培養する方法です。この方法では上端部が閉じていないために降雨やリター浸透水が容器内に浸透し、容器下端から排水されるのが特徴です。そのため、現地の降雨パターンやそれによる土壌水分の変動に対応した環境下での無機化・硝化速度を調べることができます。
    上端に取り付けたイオン交換樹脂は、無機態窒素イオンが容器内に侵入するのを防ぐ機能があり、下端に取り付けたイオン交換樹脂は容器内土壌から溶脱された無機態窒素イオンを吸着する働きをします。これにより、培養期間中に土壌で生成された無機態窒素のうち、土壌内に吸着保持された量と、土壌から溶脱された量を区別して計測することができます。

​「森林集水域の物質循環調査法(柴田英昭著・共立出版)」第5章より抜粋、一部改変

アンカー 1
アンカー 2
アンカー 3
アンカー 4
5.1_土壌ブロック.JPG

褐色森林土の表層ブロック
(北海道大学雨龍研究林)

【動画】鉱質土壌の採取方法
(北海道大学雨龍研究林)

【動画】O層(リター層)の採取方法
(北海道大学雨龍研究林)

【動画】オーガーを用いた土壌の採取方法
(北海道大学雨龍研究林)

【動画】採土円筒を用いた未攪乱土壌の採取方法
(北海道大学雨龍研究林)

5.12_テンションフリープレート.JPG
5.13_テンションフリーPVC.JPG

テンションフリーライシメーターの例
(左:平板型,右:円筒型)

5.14_テンションライシ.JPG
5.15_テンションライシ_設置.JPG

テンションライシメーターの例
(セラミック製ポーラスカップ)

【動画】TDR土壌水分計を用いた体積水分率の測定
​(北海道大学雨龍研究林)

【動画】ピートサンプラーを用いた泥炭土壌の採取方法
(北海道大学雨龍研究林)

5.18_土壌呼吸チャンバー.JPG

自動開閉式の土壌呼吸測定用チャンバー
​(北海道大学天塩研究林)

図5.1.png

レジンコア法による現地培養法の例
​(Resin:イオン交換樹脂)

森林と土壌.jpg

【参考図書】森林と土壌(柴田英昭 著|共立出版)

  • 森林科学シリーズ 全13巻 【7】巻

  • ISBN    978-4-320-05823-1

  • 2018年03月出版

  • 出版社Webサイト

地球環境文献.png

【参考文献】柴田 英昭・戸田 浩人・稲垣 善之・舘野 隆之輔・木庭 啓介・福澤 加里部 (2010) 森林源流域における窒素の生物地球化学過程と渓流水質の形成.地球環境 15(2): 133-143. 
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