化学分析|Chemical analysis
イオンクロマトグラフィー
(北海道大学森林圏ステーション・名寄教育研究棟)
イオンクロマトグラフィーの概要
(北海道大学森林圏ステーション|福澤加里部氏)
イオンクロマトグラフィーで検出されるピーク(クロマトグラム)の一例(陰イオンの標準試料)
オートアナライザー(連続流れ分析装置)
(北海道大学森林圏ステーション・名寄教育研究棟)
プラズマ発光分析装置(ICP-AES)
(北海道大学森林圏ステーション・名寄教育研究棟)
全有機態炭素分析計(TOCアナライザー)
(北海道大学森林圏ステーション・名寄教育研究棟)
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植物、土壌、河川水などのサンプルに含まれる化学成分の濃度を知るためには、実験室においてさまざまな機器分析を行う必要があります。
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すべての化学分析において、その測定原理を正しく理解し、機器が表示している数値が確かであるかどうか、精度は充分であるかどうかを理解しておくことが大切です。
【pH・電気伝導度】
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水溶液(雨水、土壌水、河川水など)のpHはガラス電極法で測定するのが一般的です。サンプルに電極を直接挿入し、pHの測定値が直接出力されるpHメーターを用いることが多いです。
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あらかじめpHの分かっている標準溶液2種(25℃でpH6.86の中性リン酸塩標準液と、pH4.01のフタル酸標準液を使用することが多い)を用いて、2点での校正を行うことが一般的です。
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水試料の電気伝導度(あるいは電気導電率)は一定距離にある電極間の電気抵抗を測定し、その逆数として値を出力する電気伝導度計(ECメーター)を用いるのが一般的です。
【イオン濃度】
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天然水試料に含まれる複数の主要イオン濃度を精密に分析するためには、イオンクロマトグラフ法が広く用いられます。イオンクロマトグラフィーと呼ばれる分析機器にはイオン交換カラムと検出器が内蔵されています。イオン交換カラムには陰イオン用と陽イオン用があり、対象とするイオン種によって使い分ける必要があります。
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イオンクロマトグラフィーは液体クロマトグラフィーの1種であり、サンプルに含まれた複数のイオンが、溶離液(あるいは溶媒)と一緒に交換カラムを通過する際にイオンごとに分離されるので、カラム末端でイオンごとに分けて検出できることが特徴です。検出器には電気伝導度計が用いられていることが多く、あらかじめ濃度が分かっている標準物質との比較から濃度を定量することができます。
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クロマトグラムの各イオンピークの面積(出力データの波形とベースラインで囲まれた面積)を用いて、濃度の分かっている標準物質の面積との比率からサンプルの濃度を定量することが一般的です。
【溶存窒素・リン濃度】
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天然水試料、土壌抽出液(塩化カリウム)などの溶液試料に含まれる溶存窒素、リン濃度を測定するためにフローインジェクションあるいはオートアナライザー(流れ分析装置)を用いることが多いです。
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無機態窒素(アンモニウム態窒素、亜硝酸態窒素)とリン酸態リン等の比色分析を自動的に行う機器です。比色分析とはある発色試薬を加えることで、特定の物質を発色させ、その色の濃さを分光光度計で測定し、標準物質の値と比較することでその濃度を定量する方法です。
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アンモニウム態窒素にはインドフェノール青法、亜硝酸態窒素にはジアゾ化法、リン酸態リンにはモリブデン酸法を用いていることが多いです。
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硝酸態窒素を定量するためにはカドミウムカラムあるいは硫酸ヒドラジン等を用いて硝酸を亜硝酸へ還元してから分析し、亜硝酸と硝酸の合計濃度として定量します。そして、試水を還元せずに分析することで亜硝酸のみの濃度を別に定量し、その差から硝酸態窒素の濃度を算出します。
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オートアナライザーを用いて溶液中の全窒素、全リン濃度を定量するためには、ペルオキソ二硫酸カリウム溶液等の分解試薬を用いて、全窒素、全リンをそれぞれ無機態窒素、無機態リンへと分解(湿式分解)する必要があります。
【溶存金属成分濃度】
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溶液に含まれる金属成分濃度の分析には、原子吸光光度計、炎光(フレーム)光度計、プラズマ発光分析計(ICP-AEC)、プラズマ発光質量分析計(ICP–MS)などが用いられています。
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原子吸光光度計は、高温で基底状態の原子蒸気層に特定の波長の光を照射すると、その光が原子に吸収されることを利用して定量する方法です。
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フレーム光度法は、励起状態の原子が基底状態に戻るときに放出される特定波長の光強度を測定する方法です。
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ICP発光分析法はアルゴンプラズマ中に試料を噴霧し、励起状態の原子が基準状態に戻る時に放出される特定波長の光を分光器で測定する方法です。また、誘導結合プラズマをイオン源として利用し、励起したイオンを質量分析計で測定することでより低濃度レベルでの定量が可能であるのがICP-MSです。
【溶存有機炭素濃度】
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天然水試料に含まれる溶存有機炭素(DOC;Dissolved Organic Carbon)を測定するためには、全有機態窒素アナライザー(TOCアナライザー)を用いることが多いです。
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これはガラス繊維濾紙(GF/F)等を用いて濾過した溶液試料をTOCアナライザー内の電気炉で燃焼することで、試水中のすべての溶存炭素を二酸化炭素に変換し、発生した二酸化炭素濃度を非分散型赤外線吸収センサーで測定するという方法です。
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あらかじめ試水のpHを下げて炭酸イオンを脱気し、溶存無機炭素の無い状態にしてから、溶存有機炭素の濃度のみを分析することも多いです。
【全炭素・全窒素濃度】
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土壌や植物といった固体成分に含まれる全炭素・全窒素含有率を分析するためには、CNアナライザー、CNコーダー等とよばれる機器を用います。
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この機器では乾燥粉末試料を機器内の電気炉で燃焼し、炭素は二酸化炭素に、窒素は窒素酸化物に変換し、そのガス濃度を定量することで、元々の固体試料に含まれる全炭素、全窒素含有率を求めます。
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窒素酸化物は還元銅を用いて窒素ガスに変換してから熱伝導度検出器等で定量することが多いです。
「森林集水域の物質循環調査法(柴田英昭著・共立出版)」第8章より抜粋、一部改変
炭素・窒素分析装置(CNアナライザー)
(北海道大学森林圏ステーション・名寄教育研究棟)