林内雨・樹幹流|Throughfall and Stemflow
林内雨の採取装置(ドイツ・ゾーリンゲン山地の観測サイト)
ウレタンラバーを用いた樹幹流の採取装置(北海道大学天塩研究林)
【動画】スノーサンプラーを用いた積雪の採取方法(北海道大学雨龍研究林)
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森林内で観測される雨(雪)のことを林内雨と呼び、幹を伝って流れる雨のことを樹幹流(Stemflow)と呼びます。(注:林内雨を林冠通過雨(Throughfall)と呼び、林冠通過雨と樹幹流を合計したものを林内雨とすることもあります。)
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林内雨や樹幹流は、雨水が林冠部で質や量が変化したものです。大気から沈着した湿性沈着や乾性沈着の他に、葉や枝の内部から溶脱した成分の影響や、林冠での着生生物による養分吸収や、樹木による葉面吸収の影響も含まれています。
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林内雨や樹幹流の濃度と量を調べることは、土壌圏への水分や養分、化学成分の供給源を理解する上で重要です。
【林内雨】
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バルク沈着と同様にポリエチレン製ロートを用いたり、採集面積を広くするために雨樋を斜めに設置して集めることができます。
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林内雨は空間的な変動が大きいことが知られているので、反復を十分に多く設定することが大切です。また、林内雨の濃度や量は、葉の展開、紅葉、落葉など生物季節(フェノロジー)の影響を強く受けるため、それらの季節変化を考慮に入れて採取間隔を設定する必要があります。
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林内では葉や枝、種などの落下物が多いため、それによる水質変化を防ぐ必要があります。採集部にネットなどをかぶせるなどして、落下物が混入しないように工夫をし、頻繁に容器等を交換するなどの配慮が大切です。
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冬期間はポリエチレン製の円筒容器などを用いて、森林内の降雪を採集し、その水量と化学成分を分析することができます。降雪・積雪量の多い山岳地帯では、採集容器が積雪内に埋もれてしまうため、アクセスの困難な場所での林内雪の継続観測は難しいことがあります。その場合には積雪深が最大となる時期に、積雪全量を円筒型のスノーサンプラーなどを用いて採取し、その積雪水量と化学成分を測定することで林内雪の全量を推定することができます。
【樹幹流】
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幹を流下する樹幹流は、幹にウレタンラバーやビニルチューブを巻きつけ、貯水タンクに溜めることで採集できます。幹表面は凸凹しているために、シリコン製充填剤などを用いて幹とチューブなどの間から水が漏れないようにする必要があります。
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樹幹流は葉や枝に受けた雨水が幹を伝って流れてくるために、少ない降水量でも集水面積が大きければ、その水量は多くなります(1降雨で数10リットルに達することもある)。しがたって、樹冠の広がりや枝張り等を考慮に入れて貯水タンクの大きさや採水間隔を設定することが大切です。また、長期にわたる観測の場合には、樹木の幹成長に応じて、巻きつけたラバーやチューブを付け直す必要があります。
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樹幹流による物質フラックスを計算する際、、雨水を捕捉する面積は、樹冠(葉や枝が茂っている部分)の面積を用います。樹冠の面積を求めるためには、その個体の枝張りを測定し、水平面での樹冠面積を求めなくてはなりません。なお、林冠ギャップがあるような疎林では、土地面積当たりの樹冠面積を求めて補正する必要があります。
「森林集水域の物質循環調査法(柴田英昭著・共立出版)」第3章より抜粋、一部改変